未利用資源を活用した料理の試食会「第2回 エコ・ガストロノミー 〜地球とヒトをつなぐ食〜 (テーマ:魚のアラと野菜)」のレポートを3回に分けてお届けします。
この試食会は、ムーンショット型農林水産研究開発事業における、未利用生物資源を用いた新しい食料供給産業の実現の取り組みの一環です。
試食会の概要は、第一弾「魚のアラ試食会「エコ・ガストロノミー」へ行ってきました!【未利用資源活用】」。料理レポートは、第二弾「魚のアラ料理、気になるお味は・・・?「エコ・ガストロノミー」未利用資源を活用した料理を試食」をご覧ください。
今回の第三弾では、実際に試食会に関わった皆さんへのインタビューをお届けします。
インタビューをさせていただいたのは、下記の面々です。
- 実施会場であるサンラポーむらくもの総務課長、高橋健二さん
- 大反響の「魚々パン」「魚々っキー」を作った高校生の笠松奈々さん
- 高校生料理人として噂の石飛権樹さん
- 東京から島根に来た天才シェフ照沼英則さん
- サンラポーむらくもの支配人、鎌谷正文さん
さまざまな立場の皆さんは、どのような経緯で試食会に参加し、未利用資源の活用にどういった考えをお持ちなのでしょうか。
目次
サンラポーむらくも総務課長 高橋健二さん

試食会を実施した経緯を教えてください
「数年前から、高橋教授をはじめとした東京大学の先生方から、『未利用資源を活用した試食会をやりたい』というお話しがあり、未利用魚の骨を使って何か料理が作れないかというご相談がありました。
もともとホテルとしても、未利用資源活用に関心があり、食材の無駄をなくすことを心がけていました。
島根の生産者の方から『食材が余っていて、何か使えませんか』と頼まれることも多くあります。基準ルールから弾かれたものでも、極力捨てることがないように当ホテルでは買い求めさせていただいております。
さらにうちのホテルでは、幅広い要望に対応できる総料理長の照沼シェフがおります。支配人にも了承いただいて、双方でどういった見せ方ができるかといった話し合いをして、試食会が実現しました。」
魚のアラ料理について
「未利用魚の頭・骨・尻尾を煮たものを使い、各料理人の方が一人2〜3品の料理を考案しました。
以前行った第1回の試食会でもさまざまな意見をいただいたので、それをふまえて改良したり、調理工程を工夫したりとさらなるブラッシュアップを重ねたのが今回の第2回です。
そのため、『魚の臭みがない』『食べやすい』といった声を前回以上にいただいた印象です。
いかに食べやすく受け入れられるかというところを料理人の皆さんは意識していますね。
今後、魚のアラ料理が市場に出回り、さらに一般の方が食べやすくなったら良いです。
その拠点として、当ホテルも継続的に活動を行っていきたいと思っています。」
未利用資源を活用した料理の感想
「魚は目と鱗以外は、捨てるところがありません。これまで廃棄していたものが美味しい料理になるというのは、大きな発見でした。
これまで多くの食材を無駄にしていたんだな、と。
今回、総料理長は、メロンの皮を煮出してスプレッドを作りました。
これも、想像すらしなかったことが、試食会という一つのきっかけによって発見され、進化していった良い例だと思います。」
魚のアラ料理の人気メニュー
「前回でいうと、魚のアラを使ったラーメンが人気ありましたね。ラーメンはもともと魚粉を使ってダシを取るものもありますし、魚のアラと親和性が高いのではないでしょうか。
また、邇摩高校の生徒が作った『魚々パン』も人気が高いですね。食べやすいだけでなく、魚の骨を練り込んでいるので、カルシウム効果も期待できます。」
学校との関わり
「学校関係者にも、とてもよく協力していただいており、生徒の皆さんも一生懸命取り組んでくださりました。邇摩高校しかり、今回の試食会にも参加している松江農林高校の石飛くんしかり。
当ホテルは、公立学校共済組合の宿泊施設で、もともと教育機関とは関係が深いんです。
島根の高校では、地域密着で地域の食材を使ったジャムや調味料を作ったり、イベントに参加したり、地域貢献・地域交流に力を入れています。
今回の試食会もそうでしたが、地方メディアからの取材も頻繁にあるので、自分たちの活動や思いを言語化する能力に長けている生徒が多い印象ですね。地域の人と関わることが自信につながっているのではないでしょうか。
主体的な行動が島根県の学生の強みであり、島根の誇りだと思っています。」
ホテル サンラポーむらくもの魅力
「当ホテルは、比較的安価にご利用いただける価格システムで運営しています。
食材もなるべく安価で仕入れ、腕の良い料理人によって作られた美味しい料理を、皆様にお安く提供することを目指しています。
東京で活躍した一流のシェフによる料理が食べられるのも大きな強みですね。
また、松江市内でも立地条件が良いことが魅力です。もともと教育機関との関係が深いことから、地域の人びとが集まりやすい環境ではあります。
さらに松江城や小泉八雲記念館といった観光施設が近くにあることで、観光客の方も利用しやすいのが利点でしょう。
人が集まりやすい環境を活かし、未利用魚の活用についても拠点となってどんどん発信していけたらと思っております。」
ホテルでは小泉八雲にちなんだ料理を提供
「2025年の秋に、松江が舞台のNHKの朝ドラ『ばけばけ』が放送されます。
主人公は小泉八雲の妻で、松江の没落士族の娘・小泉セツさんです。
当ホテルでは、八雲先生が書かれた料理本『ラフカディオ・ハーンのクレオール料理読本』をもとに、照沼シェフが八雲先生にちなんだ料理を考案し、お出ししています。
朝ドラを見て松江市に観光に来られた際は、ぜひサンラポーむらくもへお越しください。」
島根県立邇摩高校 笠松奈々さん

魚のアラを使った「魚々パン」を作ったきっかけ
「私の通う邇摩高校(島根県大田市)には、将来の進路や目標に合わせて4つの系列があるのですが(詳しくはこちら)、私は食品製造モデルを選択しています。
その食品製造の授業ではパンを作っているので、一度魚のアラをパンに混ぜて食べてみようとなりました。
実際に食べてみたところ、そこまで魚の臭みが出なかったので、もう少し工夫したら美味しく食べられるのではとなって、作ることになりました。
実際に魚々パンは多くの方に好評いただき、とても嬉しく思っています。今回の試食会でも、たくさんの方に『美味しかった』と言っていただけました。」
食品製造の授業について
「食品製造の授業では、ジャムやパン、調味料などを製造しています。
ジャムはいちごやマーマレード、調味料ではポン酢、味噌。さらにバターロールパンやメロンパン、クッキー、さまざまな加工品も作っています。」
食品製造モデルを選んだきっかけ
「もともと、将来を見据え『食』に関わる授業を選択したいと思っていました。『食物モデル』という調理師を目指す系列もあり迷っていたのですが、食品製造は実際に商品を販売できると聞き、『自分の作ったものを実際にお客様に食べてもらえる』というところに魅力を感じ、選択しました。」
フードロス削減の活動
「食品製造の授業でも、果実は基本ヘタと種以外すべて使います。皮も捨てずに使い、廃棄率を下げるよう心がけています。
商品開発では、地元のアスパラガスの選果時にでる端材の部分や、キャベツ農家さんの規格外のキャベツを使ったタレを作っています。こちらは何にかけても美味しい万能ダレとして、何度か販売もしています。
キャベツのタレは一度試食会をさせていただき、好評をいただきました。
今後も食品ロスを減らす活動を続けていき、地元の農家さんと協力して、大田市がもっと盛り上がればいいなと思っています。」
笠松奈々さん インタビュー動画
松江農林高校 総合学科2年 石飛権樹さん

料理を始めたきっかけ
「小さい頃から何かを作ることが好きで、小学校の頃は図工の時間が楽しかった思い出があります。
小・中学校はもともと野球部だったのですが、身体を大きくするためにたくさん食べていました。
そのときに『料理って美味しいな』と思い、自分でも料理を作れるようになりたいと思ったのが始まりでした。
最初の料理は、冬に作ったスープです。その後さまざまな料理に独学で挑戦しました。
はじめはレシピ通りに作っていましたが、段々と『こうした方がより美味しくなるんじゃないか』ということを考えアレンジするようになりました。」
サンラポーむらくもでのインターン
「現在、試食会の開催場所であるサンラポーむらくもさんでインターンとして料理の修行をさせていただいております。
将来は料理の道に進もうと思っていたので、インターンのお話しは願ってもないチャンスでした。
業務内容のメインは料理の盛り付けで、調理の補助をすることもあります。
今回のような試食会のイベントでは、自分で料理を考えて作らさせていただいています。
今までは、ホテルの料理を客目線でしか捉えたことがなかったのですが、自分で盛り付けや調理をしてみて、考え方が変わりました。
実際に調理の現場にいると、色合いや高さを出すための細かい工夫がなされており、たくさん学ぶことがありました。」
未利用資源を活用について思うこと
「今回のアラだけじゃなく、食材の無駄は今後も課題になってくるでしょう。できるだけゼロにしていけたら良いと思っています。
今回のような、未利用資源を活用した料理を実際に食べるイベントが増え、島根県だけでなく、全国に広がっていけば良いですね。
魚のアラ料理の美味しさを、もっと多くの人に知ってもらいたいです。」
島根県の魅力と今後の展望
「松江は宍道湖に近く、境港では新鮮な魚が取れます。近い場所から新鮮な食材を取れて食べられるのが島根の魅力だと思っています。
今後は、そんな島根の美味しい食材を使い、今までにない創作料理などを作ってみたいです。」
石飛権樹くん インタビュー動画
サンラポーむらくも総料理長 照沼英則さん

島根に来たきっかけ
「私は去年の10月(2023年の10月)から、サンラポーむらくもでシェフをしております。
もともと東京で、浦安の『シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテル』、『ウェスティンホテル東京』、お台場の『ホテル日航東京』などでシェフをしておりました。
島根県に来たきっかけは、知人から『島根県の食の手伝いをして欲しい』というお話しがあり、当時の知事ともお話しさせていただき、島根県のブランドコーディネーターという称号をもらったことです。
島根県の食材をブランド化する取り組みとして、ホテルで島根県フェアを行ったり、島根県の食材を使った商品開発を行ったりしました。」
島根県の食の課題とは
「島根県は、海からも山からも新鮮で美味しい食材が取れます。
ただ、問題は流通です。東京や大阪に食材を送るには、ものすごく高くついてしまいます。
全国に島根の美味しい食材をもっと届けるために、現状をどうにかしなくてはいけないと考えています。
しかし、大手の運送会社と契約して食材を送るためには、さまざまな食材の種類を集め、トラックをいっぱいにしないといけません。そのために数社の協力が必要です。
多くの会社からの協力を集め、県一丸となって協力していかなくてはいけない問題だと思っています。」
島根の食と土地の魅力
「仕事で島根に来た際に、土地に惚れてしまったんです。そこで、島根に住みシェフをすることになりました。
海のもの、山のもの、フルーツにしても野菜にしても、美味しいものがたくさんあります。
土も良く、 土地柄美味しい食材が取れるんですね。環境が良く、水が美味しいです。
自然豊かなのも魅力です。私は畑の中にある部屋を借りているのですが、ベランダにはカエルが多いときで15匹くらいいます。」
ホテルでの料理イベント
「サンラポーむらくもで働いて1年以上になりますが、支配人含め皆さまとても協力的な方々で、『なんでもやってみよう』という精神で毎月さまざまな企画にチャレンジさせていただいております。
今回の魚のアラ試食会もそうですし、やりがいがあるのは小泉八雲先生のシリーズですね。何度も八雲先生の料理本を読み込んで、『当時こういう料理を食べていたのではないか』と想像して料理を作り、お客様に喜んでいただいております。
今年は八雲先生の妻を主人公にした朝ドラが決まり、島根にとって良い風が吹いているなと感じます。
今後も、島根で取れた食材を活用し、地域活性化のためのイベントを積極的に行って行きたいです。」
島根の学生との繋がり
「今回の試食会でも、高校生の方々に協力していただきました。強制ではなく、『やりたい』と思ってくださった高校に、魚のアラを提供しました。
ほかにも、地元の食材を使った『高校生レストラン』という料理イベントを開催しています。ちょうど昨日も、地元の養鶏協会さんと協力し、高校生が考えた玉子料理を高校生と一緒に提供しました。
こういう形で楽しくイベントに参加していただき、食育に繋げられたらと思っています。」
フードロス削減について考えること
「私は見習いだった頃から、フードロス削減については厳しく言われてきましたので、食材の無駄をなくすという考えは染み付いていると思っています。
若い世代の料理人にも、そういった無駄をなくす料理の仕方を教えていかなくてはいけないと思っています。
ただ、今後、未来の地球を守っていくためにも、未利用資源の活用についてもっと勉強していく必要があると感じました。今回の試食会は、私含めスタッフにとって、フードロス削減を見直す良いきっかけになりました。」
フードロス対策が広まるためにどのようなことができるか
「やはり、メディアの発信はとても重要だと思います。
また、高橋教授とも話していたんですが、ただ食べて美味しかったで終わるのではなく、商品化に繋げることも目標としています。
今日来てくれたスープの会社(株式会社雲南ステージ)も、年内中にかなり大きい工場でスープの製造を行えるよう動く予定です。そういった、地元の会社さんと一緒に協力し、商品化ができたら嬉しいと思っています。」
サンラポーむらくも支配人 鎌谷正文さん

魚のアラを使った料理について思ったこと
「第1回目の試食会を行うことが決まったとき、まず『本当に食べられるのか』と思いました。お客様からも『むらくもは、廃棄するものを料理として出すのか』と思われかねないな、という心配は、正直ありました。
しかし、実際に魚のアラ料理を食べたら、そういった心配はなくなりました。
魚のアラを使った料理を宴会で出した際も、お客様からも非常に好評でした。
今回の第2回目は、前回よりさらに美味しくなったと感じますし、皆さまからもそういう意見を多くいただきました。シェフも工夫に工夫を重ね、水や野菜を入れて煮たりと、調理方法がブラッシュアップされたのが理由だと思います。
個人的に特に美味しかった料理は…『アラ揚げ豆腐の麻婆』ですね。」
ホテルの役割
「美味しい料理を提供する機能は、ホテルとして一番の核だと思っています。
照沼シェフが総料理長として当ホテルに来てから、お客様からの料理の評価は大きく変わりました。
さらに高校生レストランなど、料理のイベントにも力を入れており、地域の学生との繋がりもより強くなったと感じます。
高校生料理人の石飛権樹くんも、非常に頑張ってくれています。今回の試食会でも高校生の方が積極的に参加してくださっていましたが、島根には料理に関心のある学生が多いなと感じています。
このホテルは、もともと学校の先生たちの福利厚生のための施設でした。
今後も、教育支援の場として支援していけたら良いなと思っています。
それが先生たち、そして地域の人たちからの信頼に繋がると思っております。」
試食会を終えて

3回に渡りお送りした魚のアラ試食会特集も、今回が最終回です。
試食会が催された経緯や主催である高橋教授の想い、実際に魚のアラを食べた感想、関わった皆さんのさまざまなバックグラウンド。それぞれ違った視点から、試食会の内容をお届けしてきました。
結論として、魚のアラを使った料理は、工夫すればとても美味しく食べられるということが分かりました。
これまで使われなかった部分の食材も活用し、さらに美味しく食べることがフードロス対策に繋がるというのは嬉しい発見です。
一人でも多くの人が、地球と人類のための食を心掛けられる社会になるように。今回の試食会は、その大きな第一歩となったと思います。
それでは、最後までお読みいただき誠にありがとうございました!
(取材日:2024年12月8日、取材協力:サンラポーむらくも)