捨てられる魚のアラを「価値ある食」に。「第4回 エコ・ガストロノミー」評価会に行ってきました!

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評価会の様子
TET編集部 TET編集部

第3回(2025年7月開催)に引き続き、2026年7月に開催された未利用資源を活用した料理の評価会「第4回 エコ・ガストロノミー 〜地球とヒトをつなぐ食〜 テーマ:魚のアラと野菜 – 科学と料理の融合による未来食への挑戦」のレポートを3回に分けてお届けします。

この評価会は、ムーンショット型農林水産研究開発事業(ムーンショット目標5)における、未利用生物資源を用いた新しい食料供給産業の実現の取り組みの一環です。

第一弾となる今回は、評価会の趣旨と、開会にあたっての挨拶の様子をお届けします。

レポートの流れ

研究プロジェクトの詳細はこちらの記事をご参照ください。

参考:ムーンショット目標5の私達のプロジェクトが目指すもの「私たち、このまま生活していて大丈夫?」【高橋伸一郎教授インタビュー vol.1】

評価会について

第4回 エコ・ガストロノミー 〜地球とヒトをつなぐ食〜

  • テーマ:魚のアラと野菜 – 科学と料理の融合による未来食への挑戦
  • 日 時:令和8年7月13日(月) 12:30〜15:00
  • 場 所:エンフィレール出雲(島根県出雲市)
  • 主催:東京大学プラネタリーヘルス研究機構
  • 参加者:研究者、学校・行政関係者、栄養士、食品会社、生産者、報道関係者など約30人
評価会会場の様子

エコ・ガストロノミーは今回で4回目を迎えます。これまでは、シェフの皆さんが作られた料理を味わう「試食会」として開かれてきましたが、今回は「商品化適性評価」のための「評価会」へとステップアップしました。

研究開発の目的や方向性、メニューについて科学的な視点を交えて紹介し、おいしさに加え、栄養面・調理面からも専門的な評価をいただきながら意見交換を行う会となりました。

捨てられていた未利用資源を、科学と料理の力を使って「価値ある食事」へと転換し、新しい食文化と食料供給産業の創出を目指す。これまで開発してきたメニューを改良し、地域の食の循環を広げていくことが目的です。

評価会会場
会場のエンフィレール出雲は、普段は主に結婚式場として使われている

多くの人たちの期待と活気に満ちた評価会の様子をレポートします。

当日の様子:開会の挨拶と講演

エコ・ガストロノミーでは毎回司会進行をお願いしている倉内たい子さん
エコ・ガストロノミーでは毎回司会進行をお願いしている倉内たい子さん

当日の司会進行役は、倉内たい子さんです。倉内さんには、これまでのエコ・ガストロノミーでも司会をお務めいただいています。今回も、多彩な登壇者や参加者が集う会を、円滑かつ臨機応変に進めていただきました。

開会の挨拶:有限会社チェロトーン・代表取締役 浦部 洋一

はじめに、今回の評価会の運営を担う有限会社チェロトーン 代表取締役 浦部 洋一さんが開会の挨拶を行いました。

開会の挨拶 有限会社チェロトーン・代表取締役 浦部 洋一

「昨年までは未利用資源を活用した美味しい料理を開発し、それを味わってもらう『試食会』を開いてきました。しかし、ただ美味しい料理を作るだけでは持続可能ではないと考えています。

今年からは、より一歩進んで、科学的なアプローチに基づいて未利用資源の新たな可能性を追求する食品を開発し、世の中に広く届けていく実証を始めました。

具体的には、ここ島根で料理を開発してくださるシェフの皆さん、栄養士などの専門家、生産者や食品会社、自治体の皆さんと協力し、学校給食、病院・介護、一般家庭における栄養課題の解決につながる食品開発を目指しています。

今日の会で重要なのは、試食するだけでなく、その後のパネルディスカッションと質疑応答を通じて、これからどんな食品を作っていけばよいか、こうした食材をどう料理に組み込めば使いやすいかを、さまざまな視点から意見交換することです。

ぜひ皆さんにも一緒に取り組んでいただければと思っております。」

ご挨拶:生研支援センター 阿部 寧さん

続いて、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター(生研支援センター)事業推進部 戦略的研究開発課の阿部 寧さんが登壇しました。

生研支援センターは、内閣府や農林水産省などから農林水産・食品関係の研究開発予算を預かり、全国の研究機関を支援する組織で、高橋伸一郎特任教授(東京大学プラネタリーヘルス研究機構)のプロジェクトも支援しています。

阿部さんは、支援する立場からムーンショット目標5とプロジェクトの狙いを説明し、さらに自身の水産研究者としての経歴を交えながら、島根という地域におけるこのプロジェクトへの期待を語りました。

ご挨拶:生研支援センター 阿部 寧さん

「農林水産分野が担当するムーンショット目標5は、『2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出』することを目標としています。この目標には、食料供給の拡大と地球環境保全を両立する『生産システム』と、食品ロス・ゼロを目指す『消費システム』という二つの大きな柱があり、高橋先生のプロジェクトはその一つに位置づけられます。

高橋先生のプロジェクトのタイトルは『自然資本主義社会を基盤とする次世代型食料供給産業の創出』です。

このプロジェクトは、人の健康状態を把握して、それぞれ(の健康維持)に最適な食を提供する一方で、食料生産のムリ・ムダをできる限り抑える。人のニーズと食料の需要・供給のバランスを最適化することで、地球への負荷を最小限にする。そんなシステムを目指しています。

高橋先生のプロジェクト

実は私はもともと水産の研究者で、島根県周辺・日本海西部の水産資源や生態の研究にも関わってきました。島根の水産が抱える課題も感じてきただけに、この地で進むプロジェクトが、島根のポテンシャルを引き出すものになることを大変期待しています。

昨今、海の環境が変化し、これまであまり見られなかった魚が水揚げされることも起きています。各地で、そうした魚をおいしく食べられるようにする取り組みが進んでいますが、このプロジェクトではさらに一歩進め、ただおいしいだけでなく、人の健康にもよい食品を目指します。

今回の会は単なる試食会ではありません。研究開発の初期段階において、今後どのようなものを開発していくべきか、皆さんのご意見をいただく場でもあります。素晴らしい料理をご用意いただいていますが、ぜひ研究開発や商品化の観点からも評価し、ご意見をいただければと思います。」

講演 「料理と科学で人類と地球の健康を守る」:東京大学プラネタリーヘルス研究機構 高橋 伸一郎 特任教授

続いて、東京大学プラネタリーヘルス研究機構の高橋 伸一郎 特任教授が講演を行いました。テーマは、科学と料理を組み合わせて、人と地球の健康を同時に支える食品をつくること。プロジェクトが目指す全体像が語られました。

高橋先生 講演

「先ほど阿部様からご紹介があったように、私たちのコンソーシアムは『自然資本主義社会』を目指しています。これまでは経済価値を中心に産業が発展してきましたが、その過程で自然資本への負荷が十分に織り込まれてこなかった面もあります。しかしこれからは、自然や地球そのものを大切にしながら、持続可能な新しい食産業をつくることが目標です。

『将来はタンパク質が不足する』とよく言われますが、未利用資源や食品ロスを減らし、食べ方や生産のあり方も含めて見直すことで、100億人規模の人口を持続可能に支えられる可能性を示す試算もあります。そこで、未利用資源や低利用資源を活用することで地球への負荷を下げつつ、できる限り地域で生まれた資源を地域で加工し、地域で供給する仕組みをつくりたいと考えています。」

コンソーシアムが目指す食の未来像

高橋特任教授は、このような、人にも地球にも優しい食品を「PHF(プラネタリーヘルスフード)」と呼び、その根底にある科学と料理の関係を次のように説明しました。

参考:地球を考える食卓ー「プラネタリーヘルスダイエット」とは?地球と人類を救う食の大転換

「人にも地球にもよい食品『PHF』をつくろうとすると、科学と料理は切り離して考えられません。科学は「何が体にどう作用するか」を明らかにし、料理は「どうすれば人が無理なく、おいしく、継続して食べられるか」を担います。この両方を組み合わせて初めて、体によい成分を、実際に人が食べ続けられる形にできるのです。」

そして講演は、今回のテーマである魚のアラへと移りました。高橋特任教授は、未利用部位を価値ある資源として捉え直すと同時に、その価値には科学的な裏づけが欠かせないと述べました。

「今日は特に、魚の未利用部位の価値を再定義する会です。普段は主に身の部分を食べていますが、頭、骨、皮、内臓周辺など、これまで十分に活用されてこなかった部分にも、脂質、タンパク質、ミネラル、コラーゲンなど、異なる成分が含まれています。捨てられてきた部位を一括して「廃棄物」と見るのではなく、それぞれの栄養的特徴を調べ、どのような人に、どのような料理として届けると価値があるかを考える必要があります。

ただし、「体によい」と言うためには科学的な証拠が必要です。成分が入っていることと、実際に人が食べたときに健康効果が得られることは同じではありません。」

魚食の価値を再定義する

最後に高橋特任教授は、今回の評価会の位置づけと、参加者への呼びかけで講演を締めくくりました。

「今回の評価会では、まず料理としておいしいか、継続して食べたいと思えるか、商品としてどのような形がよいかを皆さんに評価していただきます。その結果を、成分分析や健康価値の研究とつなげることで、料理と科学の両面からPHFをつくっていきたいと考えています。

地域で捨てられてきたものを、地域の料理人、食品事業者、生産者、栄養の専門家、行政、研究者が協力して価値ある食品に変える。そうすることで、人の健康、地域の産業、地球環境の三つを同時によくしていくことが、私たちの目標です。

商品化適正は、未来食を共創する場

本日は、ぜひ料理を楽しんでいただきながら、『誰に、どのような場面で、どのような形なら食べ続けられるか』という視点でも評価していただければと思います。よろしくお願いいたします。」

ご挨拶:株式会社フーデック 代表取締役 照沼 英則シェフ

最後に、株式会社フーデック 代表取締役の照沼 英則シェフが登壇されました。今回振る舞う料理の作り方を紹介し、商品化へ向けた意気込みを語りました。

照沼シェフ

「今回で4回目となる『エコ・ガストロノミー』にて、私たちが取り組み続けているのは、魚のアラの活用です。魚の頭や骨、尻尾を圧力釜で3〜4時間かけて加熱し、ペースト状にします。そこに野菜も加えますが、その野菜も、皮や芯など通常は使われにくい部分をできる限り活用しています。

こうした素材をペースト状にし、今回は23種類の料理に仕上げました。4回目を迎えた今回は、皆さんのご意見を取り入れながら、新しい形で商品開発を前へ進めていきたいと考えています。今日はできる限り多くの料理を召し上がっていただき、評価していただければありがたいです。」


こうして、3人の挨拶とともに評価会は幕を開けました。試食会から一歩進んだ「評価会」として、どんな料理が並び、どんな評価や意見が交わされたのか。

続く第二弾では、当日振る舞われた23種類の料理を、シェフのこだわりコメントとともに詳しくご紹介します。お楽しみに!

(取材日:2026年7月13日、取材協力:エンフィレール出雲)