「プラネタリーヘルスダイエット」という言葉を知っていますか?
これは、人々にとって健康的な食生活と、地球にやさしい持続可能な食料生産を両立させるために、国際的な専門家グループ「イート・ランセット委員会」が2019年に提案した食事の指針です。「野菜・果物・全粒穀物・豆類を中心に据え、肉類や乳製品、砂糖や精製された炭水化物は控えめにする」ことが基本的な考え方です。

参考:地球を考える食卓「『プラネタリーヘルスダイエット』とは?地球と人類を救う食の大転換」
その「理想形」の一つとしてよく名前が挙がるのが、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている「地中海食」です。たっぷりの野菜やオリーブオイル、豆類や魚介を中心とした料理、と聞けば、なんとなく健康によさそうなイメージが湧くと思います。
今回、私(筆者)は、3週間スペイン・バルセロナの語学学校に通いながら現地の家庭にホームステイし、その地中海食を本場で体験してきました。ところが、現地で最初に驚いたのは料理そのものより「食べ方」でした。スペインの人々は、1日に5回も食べるというのです。
最初は「そんなに食べて大丈夫?」と思ったのですが、3週間その生活に付き合ってみると、これが意外と理にかなっていて、しかも食べているものをよく見ると地元の食材が多いのです。特別意識をしていなくても、健康にも環境にもやさしい食べ方になっているようです。
今回は、スペインの1日のタイムスケジュールに沿って、何をどう食べていたのか、順番に紹介していきます。なお、ここで挙げるのは各時間帯の代表的なメニューで、私が食べた「ある1日の献立」をそのまま並べたものではありませんのでご留意ください。(さすがに全部を毎日食べていたら、明らかに食べ過ぎになってしまいます……!笑)
目次
スペイン流「1日5食」とは
それではまず、スペイン人の一般的な食事リズムを理解しておきましょう。
| 食事 | 時間の目安 | 内容のボリューム |
| デサジュノ(朝食) | 8:00頃 | 軽め |
| アルムエルソ(午前のおやつ) | 11:00頃 | 軽食で小腹を満たす |
| コミダ(昼食) | 14:00頃 | 1日のメイン |
| メリエンダ(午後のおやつ) | 18:00頃 | 軽め |
| セナ(夕食) | 21:00以降 | 質素・軽め |
回数は多いものの、1食ごとの量は控えめ。しっかり食べるのは昼だけで、朝と夜はとても軽め。間に軽食をはさむことで、空腹をためこんで一気に食べてしまう、ということが起きにくいのだそうです。
では、実際に何が定番メニューとして楽しまれていたのか。1食ずつ見ていきましょう。
1食目:デサジュノ(朝食・8:00頃)
代表的なメニュー:カフェオレ、トースト(小さめ)、オレンジジュース/パン・コン・トマテ

スペイン人は軽めで胃腸に負担をかけないシンプルな朝ごはんから1日を始めます。定番は「カフェオレやオレンジジュースに、小さめのトースト」。スペインの一般的なトーストは日本の食パンに比べると、薄めで小さめでした。
もう少し手を加えたものを食べたい日は、パン・コン・トマテ(Pan con Tomate)も定番です。軽く焼いたバゲットに生のニンニクと完熟トマトを擦り付け、エキストラバージンオリーブオイルと塩をかけるだけのものです。じゅわっと染み込んだオリーブオイルとトマトの素朴な甘さが、シンプルなのに何度食べても飽きませんでした。リッチな気分を楽しみたいときは、スペイン名物の生ハムをのせて楽しむこともあるとか。
ちなみに上の写真のパン・コン・トマテの間にあるのはスペイン風オムレツ「トルティーヤ」です。基本の材料は卵、じゃがいも、玉ねぎ、オリーブオイル、塩のみでとてもシンプルです。オリーブオイルでじゃがいもと玉ねぎをしっかり炒めてから、溶き卵と合わせて弱火でじっくり厚く焼き上げます。とろとろの食感のものもあれば、しっかり硬めの食感のものもあり、家庭やお店によって仕上がりはそれぞれです。
オリーブオイル、トマト、オレンジ。地中海食と聞くと思い浮かべる食品が、朝食から当たり前のように並んでいました。
2食目:アルムエルソ(午前のおやつ・11:00頃)
代表的なメニュー:生ハムボカディージョ/エンパナーダ/コーヒーやフルーツ(軽めの時)

朝が軽く、昼が遅いぶん、お昼前に一度お腹を満たします。職場や学校の休憩時間に、近くのバルやパン屋へ立ち寄る人も多いです。私が通っていたスペイン語の語学学校でも、11時には少し長めの休み時間が設けられていて、そこで学生も先生も外に何か買いに行っていました。
手でつまんでサッと食べられるような軽食が好んで食べられています。定番は、切り立ての生ハムをはさんだ小さめのボカディージョ(Bocadillo)や、具材を生地で包んで焼いた(揚げたものもある)エンパナーダ(Empanada)。エンパナーダの定番の具材はひき肉と玉ねぎですが、最近は具材の種類もたくさんあります。ハム&チーズ、ほうれん草チーズ、4種のチーズ、スパイシーチキンなど多彩なアレンジが楽しまれています。
3食目:コミダ(昼食・14:00頃)
代表的なメニュー:パエリア/アロス・コン・ポジョ/フィデウア

スペインの人々にとって、昼食は1日でいちばん大事な食事。家族や友人と2時間ほどかけて、ゆっくり食べます。
このメインを飾るのが、大皿料理です。私たちがスペイン料理と聞いて思い浮かべるパエリア(Paella)、そのパスタ版ともいえる、短いパスタでつくるフィデウア(Fideuà)、そして鶏肉の炊き込みご飯アロス・コン・ポジョ(Arroz con Pollo)。パエリアとフィデウアはレストランでよく食べる料理で、アロス・コン・ポジョは家庭料理の定番です。
バルセロナで食べたパエリアには、有頭エビ、ムール貝、アサリがごろごろ。海沿いの街ならではの、魚介たっぷりの一皿でした。
ただ、面白いことに、この「魚介のパエリア」は、実は本家ではないのです。パエリア発祥の地はバレンシアで、「パエリア」といえば魚介ではなく、うさぎ肉や鶏肉、インゲン豆を使ったものを指すのだそうです。もともとは農作業の合間に、そのとき手に入る身近な食材で作られた素朴な郷土料理だったといいます。海の街なら魚介、内陸の農村ならうさぎや豆——同じ「パエリア」でも、その土地で採れるものが自然と主役になる。パエリアは、まさに地産地消を体現するような料理のようです。
参考:Skyscanner「パエリアの発祥地、スペイン・バレンシアで楽しむホンモノの味」
そして真ん中のフィデウアは、イカスミで真っ黒に染まった一皿。フィデウアに使っているパスタはイカなど魚介の出汁で炊き上げているため、魚介の旨みが染み込んでいます。スペインならではのソース、アリオリ(ニンニク入りのマヨネーズのようなソース)も一緒に食べることで、味にアクセントが生まれて、より美味しくいただけます。
こうした大皿料理が並ぶのは、たいてい週末のランチ。夜に食べることはあまりないようでした。パエリアの具材は、近海の魚介だったり、肉や地元の野菜だったりとさまざま。どれもその土地で採れたものが主役です。
4食目:メリエンダ(午後のおやつ・18:00頃)
昼食が遅いとはいえ、夕食はさらに遅いため、夕方に甘いものやコーヒーでひと息つきます。パンやお菓子、フルーツ、あるいは軽めのタパスなどが定番で、カフェやバルで友人と過ごすことも。

ここでは、最近スペインで流行っているスイーツ「チーズケーキ」をご紹介。
スペイン発祥バスクチーズケーキは、スペインでもまだまだトレンド。バルセロナの人気店「Jon Cake」では、とろとろで少し塩味が効いたバスクチーズケーキが楽しめますが、なんと1時間待ちも珍しくないのです。実際に食べてみましたが、今までで一番美味しいチーズケーキでした!!
また、街中に「0.99ユーロチーズケーキ(1切約186円)」を売るチーズケーキ屋さんもたくさんあり、現地の人にも観光客にも人気な様子でした。
5食目:セナ(夕食・21:00以降)
代表的なメニュー:家庭では、サラダやスープなど軽めの食事/ バルでは、軽めの小皿料理とお酒

1日の終わりの夕食は、日本人からすると、非常に質素で軽めな印象です。家ではサラダやスープでさっと済ませ、外ではバルで小皿料理(タパス)をつまむのが基本です。
ホストマザーが作ってくれたサラダには、いつもトマトやオリーブがたっぷり入っていました。また、ドレッシングの代わりにはオリーブオイルと塩、バルサミコ酢をかけることが多く、ここでも地元の食材とオリーブオイルがまさに「主役」でした。
昼にあれだけ食べたのだから、夜は軽くていい、と割り切っているのでしょう。夜に重たいものを詰め込まない食生活は、慣れてみると体が楽でした。
スペインの食卓から、私たちが学べること
3週間いて感じたのは、「地中海食は地球にも環境にも良い」と言われているものの、スペインの人たちは「健康のため」「環境のため」と気負っているわけではない、ということです。ただ、地元の美味しいものを、家族や友人と楽しくシェアして食べている、それだけでした。
そして、初めて聞いた時は驚いた「1日5食」も、暴飲暴食どころでは全くなく、量を散らして食べ過ぎを防ぐ、案外かしこい食べ方でした。そして食べているものを振り返ると、オリーブオイルもトマトも魚介も、その土地のものが多い。そして食べているものを振り返ると、オリーブオイルもトマトも魚介も、その土地のものが多い。近くで採れたものを食べるということは、遠くから運ばれてくる食材に比べて輸送で出るCO2が少ないということでもあります。気負わず、地元の旬をおいしく食べている、ただそれだけのことが、めぐりめぐって地球にもやさしい食べ方になっている。そんな印象を受けました。
私たちが急に1日5食にするのは難しいですが、参考にできそうなことは結構あるかもしれません。「おやつに地元のフルーツを選ぶ」「贅沢なランチを食べた日の夜は野菜中心で軽くする」「一度に沢山食べ過ぎずに、毎食8分目を意識してみる」。これくらいの小さなことなら、今日から真似してみてはいかがでしょうか。
(文・画像・構成 TET学生編集部)