昆虫「ミールワーム」を使用した水産飼料を生産しており、ムーンショット目標5のプロジェクトの協力企業の1つである株式会社Booon 共同創業者・CEO橋爪海さんの1日に密着!
2日間に分けて、企業の取り組みを紹介するツアーを橋爪さん自ら企画していただきました。
今回はツアーの様子を、「DAY1・DAY2」に分けてご紹介したいと思います。
今回は前編の「DAY1」をお届けします。
長崎を拠点に、九州で事業活動をする橋爪さん。本日は、福岡→佐賀→長崎へと移動します。
<株式会社Booonの事業>
ミールワームの昆虫粉を使用した水産飼料を製造。魚の餌を昆虫粉にすることで、現在水産領域で不足している魚粉に変わる新しい動物性プロテインを供給することができる。
さらに売れ残りの惣菜や弁当などの食品廃棄物を活用することで、フードロスを地域資源にアップサイクルしようと試みている。
詳しくはこちら。
<橋爪海さん>
長崎を拠点とする起業家。株式会社Booon 共同創業者・CEO。
2016年 久留米大学附設高等学校卒業後、長崎大学に入学
2019年「トビタテ!留学JAPAN by文部科学省」日本代表プログラム第10期生としてシンガポールに留学。在学中に1社目の会社を立ち上げる
2021年 長崎大学を卒業
2022年5月 水産物の陸上養殖ユニットを開発する株式会社PUKPUKを設立
2022年11月 昆虫由来代替プロテインの開発・製造を行う株式会社Booonを、オイシックス・ラ・大地株式会社出身で現カラビナテクノロジー株式会社代表福田裕二さんと共同創業
橋爪さんの行う水産事業について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
目次
オドラのサーモン養殖場を見学

まずは、福岡県飯塚市にあるオドラ株式会社のサーモン養殖場を案内していただきます。
橋爪さん「こちらは、陸上養殖事業を行うオドラさんのビニールハウスです!
オドラさんでは、現在嘉穂サーモンの養殖を行っており、今後Booonの昆虫粉(ミールワーム)を餌にしたサーモンの養殖も本格的に行う予定。現在は絶賛実験中です。
早速、サーモンを陸上養殖しているいけすを見に行きましょう!」
<株式会社オドラ>
独自技術を活かした食・健康に関わる事業を展開。
主に「陸上養殖事業」「農業関連事業」「美容健康事業」を行っている。

誰よりも早く養殖場に辿り着き、いけすを夢中で眺める橋爪さん。
橋爪さん「活きがいいサーモンたちですね! とても良い眺めです!」

橋爪さん「陸上養殖の魅力は、なんといっても安心・安全であるということ!
現在、海上養殖はマイクロプラスチック(※)や、アニサキス(※)の問題で成り立たなくなって来ています。
対して陸上養殖の場合、井戸水で魚を育てるのでそういった海洋環境の影響を受けず、安心して養殖ができるんです。」
※マイクロプラスチック…微細なプラスチックごみの総称で、5ミリメートル以下のものを指す。
発生過程により、以下の2種類に分類される。
一次…歯磨き粉や洗顔料のスクラブ剤など
二次…ペットボトルやビニール袋など
家庭の排水溝などから下水処理を通り、海へと流出する。現在海洋環境において、大きな懸念材料となっている。
※アニサキス…非淡水魚や回遊魚などの海洋生物に寄生する寄生虫。日本における食中毒のほぼ半数を占めるとされており、アニサキス症の原因寄生虫として知られる。

板谷さん「もともとは魚粉を使ったニジマス用の餌を使っていたんですが、値段も上がってきて、今年の4月には3割ほど値上げとなりました。
また、魚粉の質自体が下がっているのも問題視されています。
餌が良いと当然成長率も良いので、1キロあげたらちゃんと1キロ太るんですが、最近はそういうレベルのものが減ってきていて…。
そこでコストを抑え、成長率を上げるために、ミールワームを餌にできないかと考えています。」
橋爪さん「実際にミルワームを餌とした場合、どれほど機能性が維持できるのかどうかはこれから試してみてといったところですが…ミールワームの可能性に期待したいですね!」
板谷さん「そうですね。現在実験としてサーモンに生きたミールワームを与えていますが、通常の魚粉と変わない食いつきですよ。」
橋爪さん「美味しく食べてくれているようで、良かった!」
サーモンを捌くCEO橋爪さん

せっかくなので、新鮮な嘉穂サーモンをいただくことに。

橋爪さん「今日は僕が捌いちゃいますよ!」
魚大好きな橋爪さん、なんとご自身で魚を捌くことができるんです。

今回はサーモンを捌く様子を、特別に見せてもらうことに。
捌きながら、橋爪さんが魚愛に目覚めたきっかけを語ってくれました。
橋爪さん「僕が養殖魚の魅力に気付いたのは、学生のころ。初めて長崎に引越してきて、居酒屋で食べた刺身の盛り合わせが本当に美味しくて…!
それが養殖産だと知り、度肝を抜かれましたね。養殖魚ってこんなに美味しいのか!って。
そこからはもう、養殖魚の虜。
どうにかこの美味しさを発信できないか、美味しい養殖魚を育てている水産業者さんを支援できないか、と考えるようになりました。それが、現在の事業を始めたきっかけなんです。」

魚愛を語っているうちにも、どんどんサーモンが捌かれていきます。



見慣れたサーモンのオレンジ色が見えてきました。

あっという間に、嘉穂サーモンのお刺身が完成!

椎茸も栽培しているオドラさんの自社商品のしいたけパウダー「椎’SONING POWDER(オニオン味)」をかけていただきます。

新鮮な嘉穂サーモンの味に思わず唸る橋爪さん。
橋爪さん「うーん…やっぱり美味しい! 歯応えが良く鮮度抜群。脂乗りが良く、上品な味です。嘉穂サーモン最高!」

ビニールハウスと青空をバックに、オドラの皆さんと記念撮影。
最後は承諾を得て、養殖場で育てている椎茸の菌株を持ち帰った橋爪さん。
「ミールワームの飼料になるかも。明日大学に持っていこう!」とウキウキした様子でした。
Booon CEO 橋爪海さん サーモン養殖場見学
地元の大型スーパー「ゆめタウン」へ
続いては、オドラさんの嘉穂サーモンを販売しているスーパー「ゆめタウン飯塚」を訪問します。
ゆめタウンは中国地方を中心に展開する大型スーパーマーケットチェーンで、九州地方にも事業を拡大しています。

食品売り場の鮮魚コーナーで、嘉穂サーモンを発見!「産地直送 鮮度抜群」と謳われています。


嘉穂サーモンの海苔巻きや握りも販売されていました。
ゆめタウンに嘉穂サーモンが並んでいる影響で、レストランのシェフの方がオドラの養殖場に直接訪れることもあるそうです。
橋爪さん「地元のスーパーに並ぶというのは想像以上に大きな影響力で、嘉穂サーモンの出荷依頼のほぼすべてが、口コミによるものだそうです。
今後ミールワームを餌にした場合でも、同様に嘉穂サーモンの品質が保証されるということが大事だと思っています!」
唐津ハンバーガーで昼食

唐津養鶏場へ向かう道中。佐賀県唐津市「虹の松原」にて、橋爪さんおすすめの唐津ハンバーガーを食べることに。
<「虹の松原」>
佐賀県唐津市、唐津湾沿岸に広がる松原。日本三大松原のひとつで、特別名勝に指定されている。
古くは約8kmの長さから「二里の松原」と呼ばれていた。現在は、弧を描く形状を虹に例え「虹の松原」と呼ばれるようになった。

佐賀県唐津市『からつバーガー 唐津地区・松原本店』。
虹の松原を横切る県道347号線沿いの広場にあります。バーガーの包みには、唐津城と虹ノ松原が描かれています。

橋爪さん「唐津に来る時は必ずといって良いほど食べているからつバーガー。
中に入っている牛肉がジューシーですごく美味しいです。ソースとマヨネーズの相性が抜群!」
養鶏場を見学
※ミールワームの写真を掲載しています

橋爪さん「我らがCTO、皆川さん合流です!」
1日目最後に訪れた場所は、唐津養鶏場。株式会社Booonの執行役員・CTOの皆川寛俊さん(右)も同席。
鶏糞を飼料としたミールワームの育成を行っています。
橋爪さん「ここでは自社のミールワームを飼育しており、育成の大規模化に向けて日々検証を進めています! ぜひ見て行ってください!」

すべてのケースの中で、ミールワームが育てられています。

橋爪さん「今持っているミールワームの飼育拠点は、この唐津養鶏場以外に長崎県養鶏農業協同組合さんの養鶏ファームと、長崎大学があります。
さらに今後予定しているのが、さきほど訪れたオドラさんのサーモン養殖場です。
僕たちは、必要十分量のワームを作る、もしくは残渣が発生しているところで、その残渣を全量処理するというところを目指しているんです。
ここの場合は、養鶏場で出ている鶏糞を全量処理する。そしてそれを有用な動物性タンパク質に変える、というころを意識的にやっていますね。」

橋爪さん「今はまだ1週目で、1つのケースに200匹ほどのミールワームがいます。個体数を増やすために密度少なめで飼っています。
今後は一つのケースで200〜500匹の卵を産んで、最終的に2万〜5万匹のミールワームを飼える状態を目指しています。」

橋爪さん「見てください。上の方の、白く小さい個体がミールワームのさなぎです。なかなか可愛いでしょう!」

飼育場は、24時間体制で温度管理されており、異常があった場合はすぐ対処できるような体制を取っています。
また、自社のインターン生が1週間に1度訪れ、飼育状況をチェックしています。
橋爪さん「ミールワームは高温には強いのですが、寒さは苦手な昆虫です。そのため、20度以上の、飼育に適した温度に保つことは重要です。
今後は、カメラを設置し、遠隔でも飼育状況を大学で管理できる状態を作ろうと考えています。」

橋爪さん「自然界では、昆虫は生産者ですよね。しかしこのミールワームの成虫は、雑木林で朽木を食べて分解している生き物なので、どちらかというと『分解者』だと僕は思っています。
我々は、社会の中にこの分解者という存在を取り入れ、本当の意味でのサーキュラーエコノミー(※)ができないかなと考えています!」
※サーキュラーエコノミー…資源の効率的・循環的な利用を図り、付加価値の最大化を目指す社会経済システム

物流部門の立ち上げ・組織化・仕組化・さらに物流センター新設による大規模投資計画の策定と実行など部門責任者としての経験がある執行役員・CTOの皆川さんにも、ミールワームを使った水産飼料事業のこれからの課題についてお聞きしました。
<皆川寛俊さん>
外資系金融機関を経て、2003年オイシックス株式会社に入社。
物流部門の立ち上げ、その後の組織化と仕組化、物流センター新設による大規模投資計画の策定と実行、自社運行便開始など部門責任者として同社物流基盤を築く。同時にCS部門、法人営業部門の各部門長を兼務歴任。2005年サプライチェーンマネジメント本部本部長就任2012年執行役員就任。現在は株式会社Booonの執行役員・CTOを務める。

皆川さん「ミールワームの飼育を大規模化できるかどうかは、今の段階でいかに効果的な失敗ができるかが重要だと思います。
たとえば、個体が死滅してしまう原因や、直射日光がどれだけ当たると飼育に悪影響を及ぼすか、など。
そういう失敗から得たデータを蓄積し、『これはやってはいけない』というラインを引いて不安要素を潰していくことが大切だと思います。
明日行く予定の長崎大学では、ラボレベルで、小規模にミールワームの飼育実験を行っています。
こうやって飼料に鶏糞を入れ、大規模な飼育を行うとなるとまた条件が変わってくるので、研究の知見をどう工業化というところに転換していくか…それがこれからの課題なのではないでしょうか。」


荘厳な唐津城をバックに、橋爪さんプレゼンツアーDAY1はこれにて終了。
福岡→佐賀→長崎と九州を縦断し、内容の濃い充実した一日となりました。
DAY2では、皆川さんの仰っていた長崎大学でのミールワーム飼育の様子や、長崎油飼工業の視察、そして橋爪さんに事業への想いを存分に語ってもらっています。
ぜひお楽しみに!
<取材協力先>
- ムーンショット目標5プロジェクト
- 株式会社Booon
- オドラ株式会社
- ゆめタウン飯塚店
(取材日:2024/6/5)