「牛のゲップからメタンが排出されるため、牛肉生産による環境負荷は大きい」
「牛肉やお肉は、環境に悪いからヴィーガン・植物性の食事を食べた方がいい」
そんな話をよく耳にしませんか?
しかし、実際のところ、皆さんは、なぜ牛肉による環境負荷が大きいのか、その理由をしっかり理解できていますか?牛のゲップからメタンガス(温室効果ガスの一種)が多く排出されることだけではなく、牛肉の生産に伴って生じているさまざまな環境問題について、もう少し詳しく学んでみましょう。

目次
温室効果ガスの大量排出による地球温暖化
牛肉の生産に伴い、大量の温室効果ガスが排出されており、地球温暖化の原因の一つになっています。牛は消化の過程で「メタンガス(CH₄)」を発生させます。メタンガスは、二酸化炭素(CO₂)の25倍以上の温室効果を持つため、地球温暖化に大きく影響します。実際、世界全体の温室効果ガス排出量のうち、約5%は牛のゲップ由来のメタンだといわれています。
さらに、牛の排泄物からは「亜酸化窒素(N₂O)」も排出されます。亜酸化窒素は、二酸化炭素の265倍もの温室効果を持つ強力な温室効果ガスです。

しかし、牛肉生産に伴う温室効果ガス排出の約9割は、牛のゲップや排泄物ではなく、「大規模な土地利用の変化」によるものです。次に、この土地利用変化について詳しく見ていきましょう。
森林伐採
牛肉の需要が高まるにつれて、世界中で牧草地や飼料用の畑を作るために森林が伐採されています。特に、南米のアマゾンなどでは、大規模な森林が農地に転換されており、これが森林破壊の大きな原因になっています。
牛肉の需要の増加に伴い、森林や草地が牛の飼育に必要な牧草地や飼料畑(大豆畑等)へと転換されてきました。このような土地利用の変化が進むと、以下のような問題が発生します。

CO2の吸収量が減少(地球温暖化の加速)
森林や草地に貯留されていた炭素が大気中に放出され、温室効果ガスの増加につながります。また、本来であれば大気中の二酸化炭素を吸収してくれる草木が失われるため、今後の二酸化炭素吸収量も減ってしまいます。
土壌の流出や砂漠化(森林の根がなくなることで、土が流れやすくなる)
森林の木々がなくなることで、雨などによる土壌の流出が進み、土壌の栄養分が失われやすくなります。また、森林を伐採した土地では、土壌が乾燥しやすくなり、砂漠化が進むリスクも高まります。
水質汚染
牛の飼育の過程で大量の排水が発生し、それが水質汚染を引き起こすことがあります。牛の飼育場や飼料畑で使われる肥料や農薬が河川や湖に流れ込み、水質を悪化させています。また、動物の排泄物から出る有害物質も水源を汚染し、周囲の生態系に悪影響を与えることがあります。実際に、米国の工場畜産場では、家畜は毎年約5億トンの糞尿を排泄しています。動物の下水処理プラントがないため、ほとんどの場合、「ラグーン」と呼ばれるため池に保管されるか、畑に噴霧されてます。

大気汚染
牛の飼育と飼料作物の栽培は、大気汚染の大きな原因にもなっています。アメリカの研究によると、農業などの食料生産から排出されるPM2.5(細かい粒子状物質)が原因で、毎年約1万6000人が早期に死亡していることがわかっています。このうち、およそ80%は、食肉、乳製品、卵など動物性食品の生産と関連しているとされています。特に、牛肉を生産するための牛の飼育や飼料作物の栽培だけで、毎年約4000人の死亡が早期に発生しているとされています。

土壌劣化
牛肉生産に必要な大規模な牧草地や飼料畑の開発は、土壌劣化の原因となっています。牛肉の生産には、膨大な量の飼料を栽培する必要があります。この飼料の栽培には農薬や化学肥料が大量に使用されており、これが土壌に負担をかけ、土壌の栄養バランスを崩してしまいます。また、化学肥料や農薬に頼りすぎると、土壌の一部の栄養が過剰になったり、不足したりすることがあります。これが長期間続くと、土壌の質が低下し、耕作に適した土壌が減ってしまいます。
さらに、過剰な放牧や農作物の栽培が続くと、土壌の養分が枯渇し、水分や栄養を保持する力が落ちてしまいます。その結果、土地が乾燥し、不毛の地になってしまうことがあります。これが進行すると、農業や牧畜業の生産性が低下し、さらに環境問題を悪化させてしまうのです。

水の過剰使用
牛肉の生産には、大量の水が必要です。食肉会社は、飼料作物の生産から牛の飼育、牛の屠殺や加工に至るまで、事業やサプライチェーン全体で大量の水を使用しています。実際に、1kgのステーキを作るためには、約15,000リットルの水が必要と言われています。これだけの水を確保するためには、大量の水資源が必要となり、地域によっては水不足の原因ともなります。

穀物の過剰使用
牛肉を生産するためには、牛に食べさせるための大量の飼料(大豆やトウモロコシなど)が必要です。1kgのステーキの生産には、25kgの穀物が必要だと言われています。そして、この大量の穀物を生産するためには、大量の水・土地が必要となり、森林伐採や土壌劣化等様々な問題に繋がっています。
いやいや、それなら、「お肉の代替品となる大豆製品も環境を大きく破壊しているのでは?」と不安に思った方もいるかもしれません。しかし、我々人間が「大豆」として消費している大豆は、10%以下で、なんと90%以上の大豆は家畜動物によって消費されています。私たち人間が必要とする量の何倍もの量が、牛を育てるために必要になっているのです。

「なんとなくの食事選び」から「環境に配慮した食事選び」へ
牛肉の生産が引き起こす環境問題には、温室効果ガスの排出、森林伐採、水質汚染、大気汚染、土壌劣化など、さまざまなものがあります。つまり、私たちが何気なく食べている牛肉を生産するうえで、想像以上に大きな負荷が環境にかかっているのです。このことを知ることが、私たちにできる第一歩ではないでしょうか。
そして、肉の消費を少し減らして、植物性の食事を取り入れる「環境にやさしい食事」を少しずつ取り入れていく。そんな一人ひとりの小さな意識・行動の変化が積み重なれば、未来の地球を守ることに繋がるのではないでしょうか。
参考:
- グリーンピース「牛のゲップだけじゃない。肉の大量消費が引き起こす10の環境問題まとめ」
- WWFジャパン「ゲップだけじゃない、牛肉生産による環境負荷【1】土地利用変化」
- 全国肉用牛振興基金協会「牛のゲップが地球温暖化の原因と聞きましたが本当ですか?」
(文・構成・画像 TET学生編集部 mm )