「プラネタリーヘルスダイエット」とは?地球と人類を救う食の大転換

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人にも地球にもやさしい「プラネタリーヘルスダイエット」
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「プラネタリーヘルス」とは、「人間の健康と地球の健康は切り離せないものである」という考え方を指します。気候変動や生物多様性の喪失、土地の劣化といった環境問題の多くは、農業や食料生産といった人間の営みに起因しています。そしてそれら環境の悪化は、栄養不足や感染症の拡大など、私たち自身の健康にも深刻な影響をもたらしています。

参考:地球を考える食卓「『地球の健康が人間の健康を左右する?』プラネタリーヘルスとは何か」

そこで、「人々にとって健康的な食生活」と「地球にやさしい持続可能な食料生産」を、世界規模で両立させるために、国際的な専門家グループ「イート・ランセット委員会」が設立されました。この委員会は、科学的かつ定量的な目標の策定を目的としており、人間の健康、農業、政治、環境などの分野から、16か国・37人の専門家が参加しています。事務局はスウェーデンの「ストックホルム・レジリエンス・センター(Stockholm Resilience Centre)」に置かれています。

参考:EAT「EAT-Lancet Commission brief for Healthcare Professionals」

プラネタリーヘルスダイエットとは

そして、イート・ランセット委員会は「プラネタリーヘルス」の課題を解決するために、2019年に「プラネタリーヘルスダイエット」という食事方法を提案しました。これは、2050年に100億人に達すると予測される世界人口に対し、持続可能なフードシステムのもとで健康的な食事を提供するための指針となるものです。

プラネタリーヘルスダイエットは、1日の必要エネルギー量を2500キロカロリーと想定し、どのような食品グループをどれくらい摂取すればよいのかを具体的に示しています。

その内容を視覚的に表した「プラネタリーヘルスプレート(下図)」では、体積比で約半分を野菜と果物が占め、残りの半分を全粒穀物、植物性たんぱく質、不飽和植物油、少量の動物性たんぱく質で構成するべきとされています。

プラネタリーヘルスダイエットの模式図

出典:EAT Forum「The Planetary Health Diet」の画像を一部改変

何をどれくらい食べればいいの?

プラネタリーヘルスダイエットでは、果物、野菜、豆類、ナッツ類など健康的な食品の消費を増やし、砂糖・赤肉(牛肉、豚肉、ヤギ肉など見た目が赤い肉)など非健康的な食品の消費を減らすことが求められています。実際に、各食品類をどれくらい食べればいいのか、見てみましょう。

全粒穀物

  • 米、小麦、トウモロコシ、その他 232g

プラネタリーヘルスダイエットでは、精製された炭水化物の摂取を控えめにし、代わりに全粒穀物をしっかり摂ることが推奨されています。例えば、白米ではなく玄米や雑穀米を取り入れる、小麦粉製品ではなく全粒粉のパンやパスタを選ぶなど、食材の選び方を工夫することで、栄養価を高めることができます。

野菜・果物

  • でんぷん質の多い野菜(芋、キャッサバ)50g
  • 野菜(全ての野菜)300g
  • フルーツ(全ての果物)200g

野菜や果物はビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富で、健康維持に不可欠です。また、野菜や果物は動物性食品に比べると、生産による環境負荷・CO2排出量もとても小さいため、野菜・果物中心の食事は人間・地球の健康どちらにも良い影響を与えます。

参考:

動物性たんぱく質

  • 牛、羊、豚 14g 
  • 鶏その他家畜肉 29g
  • 卵 13g (0.2個)
  • 魚 28g 
  • 牛乳やヨーグルト、チーズなど 250g

動物性たんぱく質は体に必要な必須アミノ酸を含みますが、環境負荷を考慮して摂取量を調整することが求められます。プラネタリーヘルスダイエットのルールに従うと、卵は1週間に約1個、牛肉は100gのステーキ1枚程度に制限されます。「そんなの無理!」と感じる人もいるかもしれません。しかし、それだけ私たちは日常的に必要以上の動物性たんぱく質を摂取しているとも言えます。食生活を見直すきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

植物性たんぱく質

  • 豆 75g
  • ナッツ 50g

豆類は植物性タンパク質の優れた供給源であり、同時に食物繊維やミネラルも豊富に含まれています。日本人にもなじみのある納豆や豆腐など、大豆製品を積極的に活用すると無理なく続けられるのではないでしょうか。また、ナッツもタンパク質や良質な油、ビタミン、ミネラルを豊富に含む健康食品として知られています。例えば、アーモンドであれば、100gあたり、約20gのタンパク質が含まれています。

参考:

調味料

  • 砂糖 31g
  • 不飽和オイル 40g
  • 飽和オイル 11.8g

調味料についても、砂糖の摂取は控えめにし、植物由来の不飽和脂肪酸を中心としたオイルの使用を意識することが求められます。特に、オリーブオイルなどの良質な脂質を活用することで、健康的な食事を実現できます。

参考:農林水産省「脂質による健康影響」

プラネタリーヘルスダイエット1日分目安

プラネタリーヘルスダイエットへの「食の大転換」を実現するために

2050年までに100億人にプラネタリーヘルスダイエットを提供するために、私たちに何ができるでしょうか。

まず、一人一人が食生活を大きく変え、健康的な食事を実践する必要があります。プラネタリーヘルスダイエットの基準を満たすためには、果物・野菜などの植物性食品の摂取を2倍以上に増やし、砂糖や赤肉などの動物性食品の摂取を世界全体で50%以上減らす必要があります。ただし、世界には、農耕牧畜によって生計を立て、動物性タンパク質に依存している人々や、植物性たんぱく質だけでは必要な微量栄養素を摂取することが難しい場合もあります。個々の状況や地域の事情を考慮しながら、「食の転換」を慎重に進めていくことが大切になるでしょう。

また、「プラネタリーヘルスダイエット」への「食の大転換」を促すためには、国内外関係なく、様々な機関の協力が不可欠です。「健康的な食品を手頃な価格で手に入れやすくする」、「環境教育や食育を強化する」など、様々な取組みが必要となります。また、食料供給の方法も、より環境負荷の少ない持続可能な方法へと変えていく必要があります。食料を生産する上では、土壌汚染や水質汚染に繋がりうる「化学肥料」の利用削減や、水の利用量の削減などが必要です。また、収穫後の食品の輸送や加工方法などを改善して食品ロス・食品廃棄物を削減していくことで、無駄の少ない食品供給を目指すことが大切です。生産者から消費者まで、フードチェーン全体で改善の努力が求められています。

プラネタリーヘルスダイエットへの「食の大転換」を実現するために
①一人一人が食生活を大きく変え、健康的な食事を実践する
➁より環境負荷の少ない持続可能な方法で食糧を供給する

参考:

持続可能な未来のために

地球環境と私たち自身の健康を守るために、少しずつできることから始めてみましょう!

  • お肉を食べる量を減らし、植物性タンパク質の摂取を増やす
  • 食品ロスを減らす
  • 地元で生産された食品を選ぶ
  • 環境に配慮した食品(オーガニック食品など)を選ぶ

私たちの食生活が変われば、未来の地球も私たちの健康も変わります。今日から少しずつ、持続可能な食事「プラネタリーヘルスダイエット」を意識してみませんか?

(文・構成・画像 TET学生編集部 mm )