以前取り上げた、地球にも健康にもやさしい食事「プラネタリーヘルスダイエット」は、画一的なものではなく、「地域や文化に応じて形を変えるもの」「地産地消や旬を大切にするもの」です。健康にも地球にもやさしい食を考えるうえでは、まずその土地に根付いた食文化を知ることが大切になります。
参考:地球を考える食卓「『プラネタリーヘルスダイエット』とは?地球と人類を救う食の大転換」
そんな視点で今回注目するのがタイです。私(筆者)は3ヶ月間タイでインターンをしてきました。トムヤムクン、ガパオ、パッタイ。日本でもすっかりおなじみのタイ料理ですが、現地の人たちと食卓を囲むうちに、日本で知られているタイ料理と、タイの人が日常的に食べているタイ料理には、意外なズレがあることに気づきました。
その国の日常の食文化は、観光客向けの名物料理よりも、地元の人が毎日食べる「朝ごはん」によく表れると言われます。今回は、まずタイ料理そのものの特徴を押さえ、次にタイの朝ごはんに注目し、最後に「タイ人は実は食べない?タイ料理」という切り口で、日本でのイメージと現地のリアルの違いを知っていきましょう。
目次
1. まず知っておきたい、タイ料理の特徴
まずは、タイ料理に共通する特徴から見ていきましょう。
甘味・酸味・辛味・塩味を組み合わせる
タイ料理の特徴は、甘味・酸味・辛味・塩味が一皿のなかで複雑に絡み合うことです。砂糖やヤシ糖、ココナッツミルクの甘み、マナオ(タイのライム)やタマリンド(甘酸っぱいフルーツ)の酸味、唐辛子の辛味、ナンプラー(魚醤)の塩味とうまみといった要素を同時に使うため、複雑な味わいになります。日本人が「タイ料理らしい」と感じる味わいは、このバランスから生まれています。

自分で「味を調えて」食べる
食べる人が自分で味を調整して楽しむのも、タイの食の特徴です。屋台や食堂のテーブルには、ナンプラー、酢、砂糖、唐辛子といった調味料セット(「クルアンプルン」と呼ばれます)が置かれていて、出てきた料理に各自が好みで加えて味を整えます。料理が出された時点では味が完成しておらず、自分で仕上げて食べることが多いというのは、タイの食の大きな特徴です。

屋台・外食が中心

タイでは、食事を外で買って食べる文化が発達しています。朝から晩まで屋台や食堂が街にあり、家で作るより外で済ませる人が多いのが特徴です。手頃な値段で温かい料理がすぐ手に入る環境が、次の章で見る「外で食べる朝ごはん」の文化を支えています。

「タイ料理」は地方ごとに異なる
ひとくちに「タイ料理」といっても、地方によって味は大きく異なります。辛味と発酵食品、もち米が特徴の東北部(イサーン)、ハーブを多く使う北部、ココナッツミルクを多用する南部といったように、地域ごとに違いがあります。




2. 朝ごはんに表れる、タイの日常
タイも、朝の街を歩くとその日常が見えてきます。出勤前の人々が屋台に立ち寄り、温かいおかゆや焼き豚串を買っていく——バンコクではそんな光景が日常で、多くの人が「朝ごはんは外で買って食べる」スタイルをとっています。日本のように家で朝食を用意するより、屋台や食堂で手早く済ませる人が多いのが特徴です。
朝の屋台は種類が豊富で、なかには朝の時間帯にしか出会えないメニューもあります。ここでは、現地で定番とされる朝ごはんをいくつか紹介します。
ジョーク(お粥)
タイの朝ごはんの代表格が、米がとろとろになるまで煮込んだお粥「ジョーク」です。千切りのショウガやパクチー、ネギを薬味に、豚ミンチや肉団子、卵などを合わせるのが一般的で、日本のお粥よりもしっかりお腹に溜まる食べ応えがあります。テーブルのナンプラーや酢、唐辛子、コショウで自分好みに味を調えるのがタイ流です。

パートンコー(揚げパン)
ジョークの屋台には、中国由来の揚げパン「パートンコー」がほぼ必ず置かれています。豆乳やコーヒーとセットで買う人が多く、練乳やパンダンカスタードをつけて食べるのも定番です。パンダンカスタードとは、「東洋のバニラ」とも言われる「パンダンリーフ」とココナッツミルク、卵、砂糖で作る鮮やかな緑色のカスタードで、華やかな香りと上品な甘さが特徴です。

カイガタ(フライパン目玉焼き)
「カイガタ」は、小さなフライパンで目玉焼きやタイのソーセージ、豚ひき肉などを一緒に焼いた料理です。「カイ」は卵、「ガタ」はフライパンを意味し、その名の通り、熱々のフライパンのままテーブルに出てきます。パンを添えて食べることも多く、卵にはシーズニングソースをかけて味を調えます。もともとは東北部(イサーン)発祥とされ、朝市のコーヒー屋台などで見かけることがあります。

ムーピン(豚串焼き)ともち米
炭火で焼いた甘辛い豚串「ムーピン」も、朝の定番です。ムーピンは、豚の薄切り肉を甘辛いタレでマリネして焼いたものの他、ひき肉をまとめて平べったいつくねのようにして焼いたものも人気。カオニャオ(もち米)を小さな袋に入れてセットで売られていることが多く、通勤・通学の途中に片手で食べられる手軽さから人気があります。1本から買えて安価なため、屋台の前で焼きたてを買っていく人の姿を朝からよく見かけます。

こうして見ると、タイの朝ごはんは「屋台で買う」「その場で好みに味を調える」「安価で手早い」という、第1章で見たタイ料理の特徴がそのまま表れていることがわかります。
3. タイ人は実は食べない?「日本で有名なタイ料理」
トムヤムクンやパッタイ、ガパオなど日本で「タイ料理といえば」と挙がる定番メニュー。実は、私たちが知っているタイ料理と、現地の人が日常的に楽しんでいるタイ料理とのあいだには、どうやら違いがあるようです。ここでは、その代表的な例を紹介します。
トムヤムクン →「ナムサイ(透明タイプ)」を頼む人が多い
日本で最もよく知られるタイ料理のひとつがトムヤムクン。ただし、日本でおなじみの赤くて濃厚なスープと、現地で日常的に飲まれているスープには違いがあります。
トムヤムクンには大きく2種類あります。ココナッツミルクを加えて濃厚に仕上げた「ナムコン」と、それらを使わない透明で澄んだスープの「ナムサイ」です。日本で食べるトムヤムクンや「トムヤムクン味」の多くは、濃厚なナムコンを再現したものですが、タイ人と食事に行くと、皆さん決まって頼むのは透明のナムサイのほうでした。日常的に楽しむには、ナムコンはこってりすぎるのかもしれません。
ナムサイは、ハーブの香りと酸味・辛味をそのまま味わえる軽やかなスープです。具を変えれば、鶏肉入りの「トムヤムガイ・ナムサイ」など、バリエーションも豊富(ガイは鶏肉のこと)。日本で定着している「こってり濃厚なトムヤムクン」だけがトムヤムクンではない、というのは面白い発見でした。

パッタイ は「甘すぎる」と敬遠されてる?
タイの国民食として紹介されることの多いパッタイ。「パッ」は炒める、「タイ」はそのままタイを意味し、名前からしてタイを代表する料理です。米でできた平麺を甘いソースで炒めたタイ風焼きそばで、屋台やレストランでよく売られており、日本人にも親しみやすい味付けです。ところが現地の人と話すと、「甘すぎるからあまり食べない」という声が意外に多く聞かれました。観光客向けの定番、という位置づけなのかもしれません。

代わりに現地でよく食べられているのが、多彩な麺料理です。タイには米麺を使った麺料理が数多くあり、スープや具材、麺の種類によってさまざまなバリエーションがあります。
現地でよく食べられている麺料理には、たとえば次のようなものがあります。
パッシーユー は、中華料理の影響を受けた炒め麺で、太い米麺をシーユー(醤油)とカイラン(中国ブロッコリー)、卵とともに炒めた料理。パッタイの甘さが苦手な人が、代わりに選ぶ定番のひとつです。

ラートナー は、パッシーユーと同じ太麺を使いながら、とろみのあるあんをかけた料理。これも屋台では並んで提供されることが多いメニューです。

クイッティアオ・ルア(ボートヌードル) は、かつて運河の船の上で提供されていた麺料理で、1杯の分量が少なく、何杯もおかわりして食べるスタイルが一般的なようです。写真のものは豚の血を使ったスープで、濃い色が特徴。血が入ったスープと聞くとギョッとしてしまいますが、実際は臭みがなく、コクと旨みが感じられて美味しい一杯でした。

ガパオ →「ひき肉」だけじゃない、具材はさまざま
日本で「ガパオ」といえば、鶏ひき肉のバジル炒めをご飯にのせた「ガパオライス」がほぼ定番化しています。しかし「ガパオ」とは、そもそもホーリーバジルというハーブそのものを指すタイ語です。つまり、このホーリーバジルと一緒に炒めた料理は、具材が何であってもすべて「ガパオ」ということになります。正確には、ガパオ炒めは「パッ・ガパオ(=ガパオ炒め)」、それをご飯にのせた日本でいう「ガパオライス」は「カオ・パッ・ガパオ(=ガパオ炒めご飯)」と呼ばれます。

現地の食堂のメニューを見ると、豚ひき肉はもちろん、カリカリに揚げた豚バラを使ったクリスピーポーク(ムーグロープ)のガパオ、シーフードガパオ、豚・牛ひき肉など、具材のバリエーションが豊富でした。注文時に「何のガパオにする?」と具材を選ぶのが、現地では一般的です。
4. まとめ:日常の食卓こそ、その国の食文化
3ヶ月間タイで暮らしてみて気づいたのは、日本で親しまれているタイ料理と、タイの人が日常的に食べているタイ料理にはどうやらいろんなギャップがあるということです。透明なトムヤム、パッタイ以外の多様な麺料理、具材もさまざまなガパオ。そのどれもが、地元の食材と好みに寄り添った、その土地ならではの日常食です。
その土地の食文化は、有名な名物よりも、地元の人が毎日食べる何気ない一皿によく表れます。タイを訪れる機会があれば、ぜひ地元の人でにぎわう屋台をのぞいて、いつもと違う一杯を頼んでみてください。「知っているタイ料理」のイメージが、少し変わるかもしれません。
そして、そうしたローカルな食を知ることが、健康にも地球にもやさしい食を、それぞれの土地に根ざした形で考えていく出発点になるはずです。
(文・画像・構成 TET学生編集部)