「第4回 エコ・ガストロノミー」パネルディスカッション ― 商品化に向けた、おいしさの先にある課題

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パネルディスカッションの様子
TET編集部 TET編集部

第3回(2025年7月開催)に引き続き、2026年7月に開催された未利用資源を活用した料理の評価会「第4回 エコ・ガストロノミー 〜地球とヒトをつなぐ食〜 テーマ:魚のアラと野菜 – 科学と料理の融合による未来食への挑戦」のレポートを3回に分けてお届けします。

この評価会は、ムーンショット型農林水産研究開発事業(ムーンショット目標5)における、未利用生物資源を用いた新しい食料供給産業の実現の取り組みの一環です。

第三弾となる今回は、研究者・シェフ・専門家によるパネルディスカッションの様子をお届けします。全23品のおいしさを堪能したあとは、いよいよその先の話へ。魚のアラにどんな成分が含まれているのか、そしておいしい料理を実際に食卓へ届く「商品」に変えるには何が必要なのか。「科学と料理の融合」というテーマの核心に迫る議論が交わされました。

レポートの構成

第一弾(評価会の概要)、第二弾(全23品の紹介)とあわせてご覧ください。

パネルディスカッション

パネリスト・モデレーター

パネリストは、東京大学プラネタリーヘルス研究機構の高橋 伸一郎 特任教授、東京大学大学院農学生命科学研究科の小南 友里 助教、株式会社フーデックの照沼 英則 シェフ、生研支援センターの阿部 寧 さんの4名。

左から阿部 寧 さん、照沼 英則 シェフ、高橋 伸一郎 特任教授、小南 友里 助教
左から阿部 寧 さん、照沼 英則 シェフ、高橋 伸一郎 特任教授、小南 友里 助教

モデレーターは吉原 純さんが務めました。吉原さんは食品会社で商品開発や事業開発に携わった経験を持ち、現在は有限会社チェロトーンのマーケティングフェローとして製品開発に関わっています。

モデレーターは吉原 純さんが務めました
チェロトーン 吉原 純 さん

アラには何が含まれているのか ― 成分分析から

はじめに、モデレーターの吉原さんが、今回のテーマの核心を切り出しました。

モデレーターの吉原さん

「今回のテーマは『科学と料理の融合』です。皆さんが感じた『おいしさ』は、まず舌で感じるおいしさ。一方で、科学の視点から、魚のアラにどんな成分が含まれているのかも考える必要があります。」

そう述べた上で、吉原さんは小南助教に、事前に行った成分分析について尋ねました。小南助教が明かしたのは、アラに含まれる成分の意外な中身です。

小南助教

「約1か月前に、今回使う食材の一部を株式会社フーデックから提供いただき、どんな有用成分が含まれているかを簡易的に分析しました。部位による違いはありますが、おおむね50%程度が水分、20%弱が脂質でした。

照沼シェフから共有いただいたレシピを見ると、外から油をほとんど加えていません。つまり、料理に含まれる油の多くは魚そのものに由来します。

アラは脂質が少ないように思われがちですが、背骨周辺などには神経組織を守る脂質が含まれ、内臓にも貯蔵脂質が豊富に含まれます。魚の脂質にはDHAやEPAといった多価不飽和脂肪酸も含まれます。

今回のアラペーストには、魚由来の脂質や、健康価値が期待される成分が相当量含まれている可能性があります。」

どれだけの魚が「未利用」なのか ― 原料をめぐって

続いて吉原さんは、水産研究者でもある阿部さんに、島根県や日本海地域の魚の水揚げがどこまで把握されているのかを尋ねました。阿部さんが指摘したのは、データで捉えきれない「未利用」の存在です。

阿部さん

「水揚げされた魚については、各港でデータが取られており、どの魚がいつ、どの程度水揚げされたかは把握されています。ただ、値段がつきにくい魚を海上で放したり、市場に揚がっても『未利用』と分類されたりすると、そうした魚がどの程度発生し、どの程度活用されたのかまでは十分に追えない場合があります。」

安定して商品をつくるには、どの時期にどの魚がどれだけ手に入るかを把握しておく必要があります。原料をどう安定して集めるか——原料の確保が、商品化に向けた最初のハードルとして浮かび上がりました。

参考:地球を考える食卓ー食べられるのに利用されていない「未利用魚」

加工の壁は「目と歯」 ― 照沼シェフが語る現場の課題

では、実際にアラを調理する現場ではどんな苦労があるのか。吉原さんの問いに、照沼シェフが語ったのは、意外な部位の“手ごわさ”でした。

照沼シェフ

「現在私たちは複数の魚種のアラを使っています。第1回、第2回は主にスズキで試しましたが、スズキだけだと泥臭さがあり、色もかなり濃くなりました。ほかの魚を混ぜることで味が整い、食べやすくなっています。回を重ねるごとに、だいぶ改善してきました。

一番困るのは、目と歯です。長時間加熱しても完全には溶けないので、除去したり、細かい網で裏ごししたりする必要があります。商品化にあたっては、ここが大きな加工上の課題です。」

「体によい」と言うために ― 食と健康、制度の壁

議論は、このプロジェクトが掲げるもう一つの柱「食と健康」へと移りました。

吉原さんは、食品に「病気を防ぐ」といった健康効果をうたうには医学の領域に踏み込む必要があり、商品開発の大きな難所になると指摘し、高橋特任教授に制度面の壁を尋ねました。

高橋特任教授が挙げたのは、研究分野間の連携の課題です。

高橋特任教授

「農林水産分野の研究では、食品の生産・加工や成分の評価までは進めやすい一方、実際に人が食べたときの健康への影響まで調べようとすると、人を対象とする研究として倫理審査などを含む別の研究体制が必要になります。研究内容によっては、医学分野や医療機関との連携も必要です。

食と健康を一体として研究するには、農学、食品科学、医学などが横断的に連携する必要があります。しかし、研究費や制度は分野ごとに設計されていることが多く、その間をつなぐ仕組みをどうつくるかが大きな課題です。」

研究プロジェクトを支援する立場の阿部さんも、この仕組みづくりを課題として受け止めていると応じました。阿部さんが語ったのは、両側から境目を埋めていく必要性です。

阿部さん

「農林水産側からできる限り境界までデータを積み上げ、医学側からも食品へ近づいていただく。双方から境目を埋めていくことが必要だと思います。私どもとしても、その連携を支援していきたいと考えています。」

一人ひとりに合った食へ ― 評価技術の現在地

では、人を対象とした試験が難しい段階で、成分が体内でどう働くかをどこまで評価できるのか。吉原さんの問いに、小南助教が語ったのは、一歩先の評価技術の可能性です。

小南助教

「将来的には、個人の細胞からその人の肝臓や腸などのモデル臓器をつくり、個人差を含めて食品成分の影響を評価できるようになると思います。私の細胞からつくった肝臓モデル、高橋先生の細胞からつくった肝臓モデル、というように、個人ごとの反応の違いを調べる技術が、今後さらに現実的になると考えています。」

成分の分析から、原料の確保、加工の難しさ、制度の壁、そして評価技術の進歩まで——。パネルディスカッションでは、「おいしい」の先にある数多くの課題と可能性が、それぞれの立場から率直に語られました。

閉会の挨拶(まとめ)高橋 伸一郎特任教授

パネルディスカッションを終え、主催者を代表して高橋 伸一郎 特任教授が会を締めくくりました。高橋特任教授が所属する東京大学プラネタリーヘルス研究機構の取り組みと、その先に描く未来についてお話がありました。

閉会の挨拶(まとめ)高橋 伸一郎特任教授

東京大学プラネタリーヘルス研究機構(RIPH)は、2025年1月1日に発足し、同年10月21日には研究施設を高輪ゲートウェイエリアにオープンしました。地球への負荷を考えながら、食・睡眠・運動が健康にもたらす効果を検証・研究し、先端科学を用いて地球全体の健康を考える——そのため「実験場」となる拠点です。

東京大学プラネタリーヘルス研究機構


機構が掲げるのは、「100年後の地球と人類の生存可能性を、ともに高める」というビジョンです。生命と環境の対話を「測る・つなぐ・読み解く・介入する・評価し学び直す」という流れで捉える研究の力と、研究と社会をつなぐ人材を育てる教育の力。この両輪で、生命圏の共生と再生をめざす世界共創プラットフォームを目指しています。

RIPH基本構想

今回のエコ・ガストロノミーで取り組んできた「食」は、この構想の中核をなすテーマの一つです。機構が描くのは、医療・予防・介護・食を横断し、一人ひとりの健康(Well-being)と回復力(Resilience)を現場で実装していく未来です。

そのために、まず一人ひとりの健康状態を「測る」。その人に合った食事や運動を提案して健康を「支える」。毎日の暮らしに馴染む商品で、よい食習慣を「続ける」。そして、その仕組みを予防医療や地域モデルへと「広げる」。今回の評価会で並んだアラのふりかけなどの料理も、まさにこの「続ける」を担う存在です。

元気指標

高橋特任教授は最後に、こう呼びかけました。

「引き続き、地球のために、そしてそれぞれの人のために、未来の食の設計に一緒になって、ご協力ください。」

科学と料理を組み合わせて、人にも地球にもやさしい食をつくる。魚のアラという身近な食材から、この大きな構想の一歩がすでに始まっています。

評価会を終えて

3回にわたってお届けしてきた「第4回 エコ・ガストロノミー」特集も、今回でおしまいです。

これまで捨てられてきた魚のアラや、野菜の皮・芯、規格外の野菜。今回の評価会は、そうした「未利用資源」が、科学と料理の力でどこまで「価値ある食」に変わりうるかを見せてくれる場でした。

そして今回「エコ・ガストロノミー」は、「試食会」から商品化を見据えた「評価会」へとステップアップしました。ここで交わされた意見の一つひとつが、次のメニュー、そしていつかお客さんの前に並ぶ商品へとつながっていくはずです。

次回は、試作品ではなく市場に並ぶ製品のお披露目が見られるかもしれません。乞うご期待ください!

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

(取材日:2026年7月13日、取材協力:エンフィレール出雲)